ハンドマッサージによる健康な人の変化1 自律神経への影響 山口 創

  • 研究報告
  • 桜美林大学准教授 臨床発達心理士

    山口 創

    1967年静岡県生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は、臨床心理学・身体心理学。
    主な著書に、『手の治癒力』(草思社)、『からだとこころのコリをほぐそう』(川島書店)
    『愛撫・人の心に触れる力』(日本放送出版協会:NHKブックス-959) 『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書)
    『皮膚感覚の不思議』(講談社ブルーバックス)など。 近年では、NHK総合の「シブ5時」などへの出演、各種雑誌媒体の監修も担う。


    自律神経への影響

    ハンドマッサージはとてもシンプルな手技で、リラックスなどの効果が期待できる統合医療としても現在注目されています。
    特に医療場面での看護や介護のケアとしても注目され、そのエビデンスを検証する研究も増えています。

     

    領域としては、①健常者のストレスや不安、②精神疾患の患者の症状緩和、③手術後の痛み、④認知症患者の症状緩和
    ⑤高齢者のストレス緩和、⑥アロマセラピーや音楽との組み合わせの効果、⑦終末期の患者への効果などが検討されています。

     

    このコラムでは、このような7つの領域別に、それぞれの領域で行われた研究を紹介しようと思います。

     

    また研究の多くは効果があることを示した研究ですが、なかには効果が見られなかった研究もあります。
    効果が見られなかった研究でも、その筆者の大部分は、積極的に「効果がない」、と主張しているわけではなく、
    「何らかの原因で効果がなかった」、と述べています。ですから効果がみられなかった研究でも、その原因を推測することで、
    より効果的なケアの方法を追求するためには、有用だと思います。
    そのような理由でこのコラムでは、効果がなかった研究も取り上げて、その原因を考えてみたいと思います。

     

    第1回は、「ハンドマッサージによる健康な人の変化1-自律神経への影響」についてみていきます。
    まずは最近の研究から紹介しましょう。Kunikata(2012)は、14人の健常な女性に対して、
    英国のセラピューティック・ケアの手技を用いて各20分間のハンドマッサージを施しました1)。
    やり方は、施術者と受け手は椅子に座り、各々の膝の上にクッションを置き、その上に手を置きます。
    やり方は、受け手の手背部と手の平、腕にクリームを塗って心臓に向かって3分間ゆっくり撫でます。
    次に施術者は受け手の手根骨から手の平の中心部にかけて円を描くように1分間撫でます。
    同様のことを手背部にも施術します。

     

    図1 セラピューティック・ケアの技法(イメージ)

     

     

    このハンドマッサージの施術前と施術後に、STAI(状態不安尺度)、α-アミラーゼ(ストレス指標)、指尖容積脈波(心拍や自律神経の測定)を測定しました。
    そのほかに、「相手と会話をしたい欲求」と、「相手との親密さ」について、VAS(Visual Analog Scale)を用いて10cmの線分の当てはまる部分にチェックを入れてもらいました。
    実験の結果、自律神経の交感神経と副交感神経には、ハンドマッサージの前後で統計的に意味のある差は出ませんでしたが、
    心拍数と自律神経の活動の強さには、リラックスの方向に差が出ました。またα-アミラーゼには差が見られませんでした。
    これらの結果は、実験参加者は健常な成人を対象にしているため、ストレスレベルが最初から低かったことが原因だと考えられています。
    また主観的な心理指標のSTAIは、施術によって有意に低減がみられ、「相手と会話をしたい欲求」と、「相手との親密さ」は7割以上も得点が上昇したことがわかりました。

     

    これと同様の結果は、佐藤(2006)2)をはじめ、海外の論文でも多くの研究で得られている効果です。

     

    心理的な効果はリラックスのほかにも、「抑うつ」「疲労」「混乱」などの低下は、ほとんどの研究からも得られる効果ですが、
    自律神経や生化学的指標といった生理的な指標については、結果が出ていない研究もあります。
    なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
    以下に原因として考えられることをあげてみましょう。

     

    第1は、同じくハンドマッサージと言っても、「指圧」のような手技では、これとは逆に覚醒の効果が出ているものがあります4)。
    また時間については、ハンドマッサージを16分行った研究や20分行った研究では効果が得られていますが、
    10分しか行わなかった研究では生理的な効果が出ていないものもあります5)
    また効果の現われる時間や持続時間については、自律神経活動や心拍数、血圧の変化は、マッサージ後およそ2分後から効果が現われ、
    その効果はマッサージ終了後、10分~30分は持続することもわかっています3)。
    そして見過ごされやすいには、オイルや潤滑剤を使用するか否かによっても、効果に影響がある点です。
    渋谷(2014)によると、ローションとオイルを使用する場合にはどちらも大差はないのですが、潤滑剤を使用せずにハンドマッサージを行うと、
    「滑りやすさ」「温かさ」「馴染む感じ」が劣るといいます(表1)6)。この傾向は、ハンドマッサージを施術した者にもみられました。

     

    表1 潤滑剤とハンドマッサージを受けた者の感想
    (渋谷,2014)より

    第2は受け手の姿勢です。阿部他(2001)7)の報告によりますと、同じように上肢を圧迫するとしても、
    受け手が坐位の場合には施術後に拡張期血圧(最低血圧)が有意に上昇するのに対して、仰臥位で行うと施術後も血圧の変化は認められなかったといいます。
    実際、仰臥位に比べて坐位では交感神経の活動性が高いことから、これらの体位の違いによる自律神経の活動性の違いが、
    その後のマッサージに対する血圧の変化の違いに影響している可能性が考えられます。仰臥位の方がリラックスの効果が持続しやすいと言えるかもしれません。
    第3の施術者との緊張感については、触れる前に十分に相手とアイコンタクトをとり、話しかけて会話をしておくことで、
    相手との心理的な境界を低くしておくことが大切です。それを十分にせずにマッサージを行うと、せっかくのマッサージの効果を小さくしてしまうでしょう。

     

    文献

    1) Kunikata,H. et al. 2012 The effects measurement of hand massage by the autonomic activity and psychological indicators. The Journal of Medical Investigation, 59, 206-212.
    2) 佐藤都也子 2006 健康な成人女性におけるハンドマッサージの自律神経活動および気分への影響 山梨大学看護学会誌 4(2), 25-32.
    3) 大川百合子・東サトエ 2011 健康な成人女性に対するハンドマッサージの生理的・心理的反応の検討 南九州看護研究誌9(1). 31-37.
    4) 小板橋喜久代 2002 指圧・マッサージ技法のエビデンス  臨床看護, 28(13), 2070-2077.
    5) 井草理江 他 2008 看護ケアとしての足部マッサージ中および終了後における自律神経活動指標の評価 日本看護研究学会雑誌, 31(5), 21-27.
    6) 渋谷えり子 2014 看護基礎教育におけるハンドマッサージ技術の検討 埼玉県大紀 16, 55-59.
    7) 阿部洋二郎 他 2001 手技療法が自律神経活動に及ぼす影響-健常者における心拍・血圧スペクトル解析による検討- 日本手技療法学会雑誌, 12(1), 34-38.

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