トトロとヨーダが出会う場所 園田義明

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    一般社団法人 森の防潮堤協会 園田義明

     

     

    宮崎駿×宮脇昭

     

    「実践家なんです。高邁なこと言う人から見れば“改良主義”にしか見えないような、工場や都市の緑化運動を具体的に提言し、指導してる。ただただ木を植えよ”。もはや評論家や識者が抽象的な議論してる時期じゃないんだ、と」

     

    この一文が『平凡パンチ』1984年7月9日号に掲載されていたことが叶精二氏の『宮崎駿全集』(フィルムアート社)で紹介されています。
    発言者はもちろん『となりのトトロ』、『もののけ姫』、『風の谷のナウシカ』などで知られる宮崎監督。そして宮崎監督が“木を植えよ”の実践家と呼んだのが植物生態学者の宮脇昭先生です。
    宮崎監督に強い影響を与えたのが植物学者である中尾佐助氏提唱の「照葉樹林文化論」であることは有名な話ですが、宮崎監督が中尾氏と並んで尊敬する人物として宮脇先生の名前を挙げたことも『宮崎駿全集』に書かれています。
    この宮脇先生ですが、初めてお会いした時から、そのお顔と凄まじいほどの眼光の鋭さから、私の中ではヨーダ先生になっていました。
    このものがたりは東日本大震災がきっかけで始まります。ヨーダ先生曰く「東北被災地にただただ“木を植えよ”。本気になればなんとかなる。やるしかないのだ。日本古来の知恵があるではないか。自然の揺り戻しには森のフォースで対抗するのじゃ」ということで「いのちを守る森の防潮堤」構想が動き出したのです。

     

    子どもたちのどんぐり拾い

    あれから4年半後の2015年11月21日(土)。この日は毎秋恒例のどんぐり拾いです。ヨーダ先生の不思議な力に導かれるかのように宮城県仙台市青葉区北山にある輪王寺境内には朝から大勢の家族連れの皆さんが集まってきました。
    立派なシラカシが落としたどんぐりめがけて繰り広げられる争奪戦。小さないのちの存在が見えるのか、どんぐりイベントになるといつも頑張るのは子どもたちです。
    30分ほどの作業で集まったどんぐりはバケツ3杯以上。そこで今度は子どもたちを集めて蒔き付け作業も行いました。育苗箱の中に我先にと小さな手が伸びてきて、どんぐりを並べていきました。
    そして、応援に駆けつけてくれたご当地キャラの植樹マン、伊達武将隊と一緒に記念撮影。子どもたちの笑顔に応えるかのように春になれば芽を出すことでしょう。

     

     

    どんぐり拾い翌年春に発芽したものは、初夏になると鉢上げされてポット苗になります。そのまま東北の厳しい冬を二度ほど乗り越えて植樹祭へと旅立ちます。
    東日本大震災以後、森の防潮堤協会はこうしてどんぐり拾いから始まる苗木づくりを続けてきました。
    こうして育った苗木の多くは宮城県岩沼市にある「千年希望の丘」に集められます。この地ではこれまで3回の植樹祭が開催され、累計2万人近くのボランティアの皆様が集まり、15万本以上の苗木を植えてきました。
    岩沼市「千年希望の丘」はヨーダ先生の森の防潮堤構想が具現化したところ。そこにあるべき土地本来の植生、即ち潜在自然植生理論に基づく宮脇方式によって、日本古来の鎮守の森が蘇ろうとしています。

     

    第2回「千年希望の丘」植樹祭の様子

     

     

    岩沼市「千年希望の丘」のひみつ

    子どもたちがどんぐりに目を輝かせるのはなぜなのか。宮崎駿監督の「となりのトトロ」の影響もあるのでしょうか。
    トトロが公開されたのは1988年。今から30年近く前ということを考えると、さすがに今の子どもたちはトトロのことは知らないだろうと思っていたら、テレビで放送されるたびに毎回20%前後の高視聴率を記録しているようで、トトロの影響がないとは言えません。
    トトロがいたのも鎮守の森でした。巨大なクスノキの根元にあった空洞がトトロたちの住処でした。「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」などでも森が描かれています。
    西日本で鎮守の森と言えばクスノキです。東日本でも人口の森の世界最高傑作と言われる明治神宮にはクスノキが数多く植えられ、今や20メートルを超える大木になっています。
    しかし、岩沼市「千年希望の丘」にはクスノキは植えられていません。東北地方の厳しい冬に耐えられないと判断したのか、ヨーダ先生がつくった植栽樹種リストにクスノキはなかったのです。
    クスノキがいない。ならば子どもたちが大好きなトトロもいないだろう。
    ところがどっこい、どこでどう迷い込んだのか、15万本の苗木の中にクスノキが1本だけあるのです。その成長が早いため、まわりの苗木たちより頭ひとつ飛び出し、ちょっぴり目立っています。

     

    トトロとヨーダが出会う丘

    岩沼市「千年希望の丘」から少し離れていますが、仙台空港に一番近い丘周辺でクスノキを探してみてください。
    もしも見つけられたら、その根元にトトロたちがいるかもしれません。
    いつの日か再び、ダークサイドがこの地に襲い掛かることもあるでしょう。その時、どこからともなくトトロとヨーダが舞い降りてきて、あらゆるいのちとこころと子どもたちの笑顔を守ってくれると信じています。
    希望は失われていません。みんなで力を合わせてつくっていくものです。

     

     

     

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